ワインの根に巣食うフィロキセラというアブラムシ。1863年にフランスで発生してから世界中のブドウをダメにした、とんでもない虫です。しかし、生き残ったブドウもあり、そのブドウで造られたワインをプレ・フィロキセラと言います。今回はフィロキセラの歴史と共に、そのワインがどんなものだったかご紹介したいと思います。
【更新情報】
201829日公開。
2019年7月12日更新。
ワインヌ先生
今から150年前のヨーロッパで、肉眼では見えないくらい小さな虫のせいでワインの生産量の2/3がダメになった出来事があった
まーくん
フィロキセラ禍ですね!
ワインヌ先生
そうそれ。

ヨーロッパ系品種のブドウ木の根を食い荒らすフィロキセラブドウネアブラムシと言って、元々はアメリカから輸入した実験用のブドウ苗木についていて、あっという間にヨーロッパ全土に広がってしまった

まーくん
なんという……
ワインヌ先生
わかりやすく、フィロキセラの歴史を表にしてみたぞ
1863 フランスでフィロキセラが発見される
1860年代 南ア フィロキセラの害に合う
1869 Gaston Bazille(ガストン・バジール)らがフィロキセラ対策に接ぎ木を提案する
1873 ソノマ(※)でフィロキセラが発見される
1875 フィロキセラが発見される
1878 西 マラガ(※)でフィロキセラが発見される
1879 シチリア(※)にフィロキセラ上陸
1882 スペインとの国境からフィロキセラが到達
1882 東京・三田育種場でサンフランシスコより購入したブドウ木にフィロキセラを確認
1894 穂木をフィロキセラ耐性のある台木に接木することによりフィロキセラを解決
1895 フィロキセラによる被害発生
1897 北島ワカピラウ(※)でフィロキセラ発見
19c後半 米産台木に仏産穂木を接木することによりフィロキセラを解決
19c後半 フィロキセラ害でヨーロッパから多くの栽培家や醸造家が移住
1902 ロメオ・ブラガードが接木によりフィロキセラ被害を解決する
1910 南ア 接木によりフィロキセラを解決

西:スペイン 豪:オーストラリア 独:ドイツ 新:ニュージーランド 智:チリ

ソノマ:カリフォルニア北部の高級ワイン産地。

マラガ:スペイン南部の土地。甘口ワインなど生産している。

シチリア:イタリア半島のブーツの先にある、イタリアで面積最大の州。地中海最大の島でもある。

ワカピラウ:ホワカピラウとの表記が多い。北島北部のノースランドにある。

ワインヌ先生
フィロキセラはヨーロッパ品種のみを食い荒らすため、それに気づいたガストン・バジールら学者たちが1869年に接木を提案根っこ部分をフィロキセラに耐性のある品種に植え替えて(台木)、その上に今まで通りつくりたいブドウ品種(穂木:ヴィティス・ヴィニフェラ)を接木していった
まーくん
どんな品種なんですか?
ワインヌ先生
色々品種改良されてるものの、基本の台木品種は3つ
ヴィティス・リパリア 河川の低湿地に自生してて、根は浅め
ヴィティス・ルペストリス 岩の多い痩せた傾斜の乾燥地に自生していて、根は深く、寒さへの耐性がある
ヴィティス・ベルランディエリ 石灰岩土壌に生息し、強靭で乾燥や石灰への耐性がある

<参考:植原葡萄研究所

まーくん
ほう、なるほど。

じゃあ、現在ほとんどの品種の台木はヴィニフェラ種じゃないことが多いんですね

ワインヌ先生
そういうことだな。ちなみにチリはフィロキセラ禍を免れたが、一方でネマトーダというセンチュウ類の害虫にやられた木が多かったので結構接ぎ木されてたりする

プレ・フィロキセラのワイン

ワインヌ先生
さて、ようやく本題だが、フィロキセラ禍を生き延びて自根のまま今もなお生き続けているブドウ木からつくられたワインというものがある
まーくん
ワクワク
ワインヌ先生
プレ・フィロキセラと呼ばれてるんだが、ポスト・フィロキセラのワインよりも重くて重厚だと言われている
まーくん
やっぱ、味は変わっちゃったんですかね?
ワインヌ先生
専門家によると違うらしいが、わかんない人にはわからんらしい
まーくん
ふむふむ
ワインヌ先生
シャンパンのボランジェ「ヴィエイユ・ヴィーニュ・フランセーズ」という、フィロキセラに侵されなかった高齢樹でつくったブラン・ド・ノワールをリリースしている。高いぞ
まーくん
おおお!
ワインヌ先生
オークの古樽で醸造するなど、伝統的なシャンパンの製造法でつくってて、ロバート・パーカーが「これは本当にシャンパーニュではなく、ワインでもない」と言ったとか
まーくん
唯一無二なんでしょうね……
ワインヌ先生
他にもイタリアの樹齢300年のプレ・フィロキセラワインなんていうものもある
まーくん
希少品種……さっきの10万ワインを見た後だと、安く感じますね……
ワインヌ先生
これも唯一無二の味がしそうな予感。
ワインマニアは手を出してみるといいかも

<参考:『ワインの自由』堀賢一 集英社>