同じワインでも、人によって感じられる香りは違います。
それは経験の差の他に、その人の持つ匂いに対する感受性の強弱によっても変わってくるのです。今回は、科学的な側面からワインの香りについて読み解いてみました。
【更新情報】
2017年12月7日公開。
2018年3月30日更新。

 

まーくん
あの、ピノ・ノワールってすみれの香りなんかしますか??
ワインヌ先生
するじゃん
まーくん
えっと、どの香りがすみれなんでしょうか……
ワインヌ先生
うーんと、果実味あるじゃん?
まーくん
はい
ワインヌ先生
それが鼻の手前側で香ると思うんだけど、すみれはもっと鼻の奥のほうで感じる白い花よりも有色花よりでスウッとした上品なやつ
まーくん
う~~~~ん……やっぱりわかりません。

どうしてもミネラルぽい香りしか拾えません……

ワインヌ先生
あーソレ、あんま気にしなくてもいいと思うぞ。
まーくん
え、なんでですか!?
ワインヌ先生
すみれの香りってβ-イオノンっていう成分なんだけど、40%くらいの人が生まれつき全然わかんないらしい。
だから、すみれの香りにかぎらず、ワイン会に参加しててもその香りが「する/しない」で意見が分かれることも多い

濃度が濃い/薄いで全然違う香りに

ワインヌ先生
実は人によって、成分に対する感受性は結構違う
まーくん
へ~!
ワインヌ先生
さらに……えーと、その前に前提として知っててほしいことがあるんだが
まーくん
はい
ワインヌ先生
何かが香るって状態は、その分子が鼻の中にある嗅覚受容体に結合して脳が「あ、この香りはアレだな」って思い出すことなんだな
まーくん
ふむふむ
ワインヌ先生
そんで、その分子の量である濃度には閾値(いきち)ってのがあって、
例えば分子Aの閾値が10だとしたら、その場所に3しかない場合は受容体に結合しても何も香らない
まーくん
ふむふむ
ワインヌ先生
そんで、10あったときに初めて香る。これが閾値な
まーくん
はい
ワインヌ先生
そして、最低値である10あれば香りを感じ取れる人もいれば、15ないと香りを感じ取れない人もいる
まーくん
なんと!
ワインヌ先生
そーなんだよ。
んで、こっからがおもしろいとこなんだけど、
濃度に対しての香りってのは絶対的なものではなく、同じ濃度でもそれぞれの人の感度によって変わる

例えば成分Bにおいて、濃度が濃い場合は良い花の香りがして、濃度が濃くなると悪臭に感じるとする。

すると、成分Bに対しての感受性が低いCさん感受性が高いDさんがいたとしたら、
同じ濃度の香りを嗅いだ場合でもCさんには良い花の香りがして、Dさんには悪臭に感じられてしまうということがある

まーくん
えええええ!
ワインヌ先生
これはワインにも言えること
だからブラインドテイスティングをしたときに、ある特定の香りが人によってはしたりしなかったりしたり、全く違う香りがしたりするということになりえる
まーくん
なるほど……!

濃い/薄いで違う香りの例

ワインヌ先生
当然ワイン以外にも言えるが、濃度の「濃い/薄い」で香りが変わる香りはあって、その違いはちょっとびっくりするぞ

 

濃い 薄い
ジメチルサルファイド 磯の香り 磯の香りを残しながら

ストロベリージャム、コンデスミルクのような香り

野菜を料理している匂い

インドール 不快な糞臭 ジャスミンやクチナシの花の匂い
フルフリルメルカプタン 悪臭 ナッツを焦がした匂い

コーヒー豆を炒ったときの匂い

デカナール 油臭い悪臭 オレンジの果実の匂い
アルデヒドC-11 脂肪臭 バラの花のような香り
α-イオノン(※1) 木の匂い スミレの花のような香り
スカトール 糞臭 清涼感のある香り
γ-ノナラクトン ココナッツの匂い フルーティ、フローラル

ムスクのような香り

『「香り」の科学』平山令明(講談社 2017年)P138「表7-1 濃度によって香り質が大きく変化する分子」より抜粋

※1 イオノンにはα、β、γなどがあって、αもβもスミレの香りがするようです。

 

ワインヌ先生
例えば、濃いと不快な糞臭のインドール薄いとジャスミンやクチナシの匂いなんだけど、

これ、感受性が高い人が「なんか糞臭しねえ?」って言ってる横で感受性低い人が「は? めっちゃジャスミンのいい香りするし」って言ってるようなことがありえるというわけ

まーくん
おおお……なんという……
ワインヌ先生
だから、例えば「ココナッツの香りがしますね!」って言う意見に対して、「フローラルの香りしかしないよ、それは間違いだねえ」なんて訳知り顔でいっちゃ恥かくぜ、って話だな。

だって間違いじゃないんだし

まーくん
つまりその場合、新参者のほうが分子に対する感受性が高かったってことですよね?
ワインヌ先生
そういうこと。

ただし、その子に対する感受性が高いから優れてるってわけじゃないから要注意な

まーくん
はーい

 

<参考文献>
『「香り」の科学』平山令明(講談社 2017)
『Sommelier 2017/159 11月刊』(一般社団法人日本ソムリエ協会)