1000年前のワインは、現在流通しているワインと同じ味だったのか──そんな話題がネットを駆け巡りました。というわけで、今回は弁護士でワイン研究家である山本博先生の著書『ワインの歴史』を参考に中世ワインの味を読み解いてみました!
【更新情報】
2018年1月18日公開。
2018年5月13日更新。
ワインヌ先生
ネットで1000年前のワインの味がどうのって話が話題になってたんだが……
まーくん
なってましたね~
ワインヌ先生
その筋のプロとか、歴史に強い人が色々意見を述べてたけど、
たしかにワインの歴史については学んでも、その時代に流通してたワインの味については勉強してないな……と。
というわけで、『ワインの歴史』(著:山本博、河出書房、2010年)という本を参考に、当時のワインがどんな味だったか考察してみたぜ!
まーくん
おお!
まずは結論から
ワインヌ先生
結論から言うと、いわゆる名酒と言われるワインの登場は近世になるので、1000年前の中世では素晴らしいワインの記録はあるものの、現代の宝とも言えるワインの味には劣るようだぜ
まーくん
やっぱりテクノロジーの違いですか?
ワインヌ先生
それはもちろんのこと、衛生観念が低かったことや瓶がまだ普及していないこともあって、美味しい状態で保つということが難しかったようだな。製造法についても、これから発展していくという感じ
まーくん
なるほど~!!
ワインヌ先生
また、ボルドーワインの発展に繋がったアキテーヌ女公が活躍する時代(※1)のワインは全て樽詰めで、春を越すと酸っぱくなってしまっていた。そのため新酒が好まれていて、流行していたのは薄い赤ワイン(クラレット)で白ブドウも混ざっている、今のボルドーワインとは違うもの
※1 アキテーヌ女公:アリエノール・ダキテーヌ。当時、今で言うボルドーの領主で、最初はルイ7世と結婚するが後に離婚。その後、後の英国王・ヘンリー2世と結婚。このことにより、ボルドーが世界市場の中心であったイギリスの領地となり、ワイン名産地として繁栄することとなった。
まーくん
重い赤が主流ではなかったんですね
ワインヌ先生
ブルゴーニュに関しては、名声をあげるワインは登場していたものの白ワインか薄い赤ワインが主流で、シトー派(※2)の修道僧たちがワインの品質を磨きあげるために精を出していったとの記録がある
※2 シトー派:シトー会。カソリックに所属。労働と学習を重んじており、ワインの品質を磨き上げることに精を出した。また、ブルゴーニュのコート・ド・ニュイ地区、コート・ド・ボーヌ地区の畑を細分化して、レベルをつけた。
まーくん
ふむふむ
ワインヌ先生
そもそも、この時代のワインの飲み方は今のように静かに香りを楽しみながら……というものではなく、王侯貴族は暴飲暴食が当たり前で泥酔するまで飲む「酔うこと」を目的としたものだったんだと
まーくん
では、この時代から近代にかけて飲み方も変わっていったんでしょうか?
ワインヌ先生
シャンパンの登場が17世紀なんだが、製造にも手がかかるが、そのものを研究し完成させることも大変だったからワインを飲む意識みたいなのが変わっていったんじゃ?
ワインって、いつごろから飲まれていたの?
ワインヌ先生
さて、ではではワインの歴史を遡っていくぜ!
まーくん
はーい
日本
ワインヌ先生
まず日本だが、古代にワインが造られていたshijimido001意見もあるが、本著では、日本では飲水がキレイだったことから、わざわざ製造に時間がかかるワインはつくっていなかったんでは? としている。あと、日本は高温多湿で非常に造りづらい土地(※3)ゆえ、当時に造るのはテクノロジーがないから無理だった、と
※3 ブドウが造りやすいのは乾燥しており、雨が少ない土地です。
まーくん
なるほど
ワインヌ先生
古事記に登場する、ヤマタノオロチを倒すときに使ったヤシオリ酒がワインでは? という意見もあったようだが、重醸酒だろうから違うと
まーくん
ふむふむ
ワインヌ先生
というわけで、日本にワインが登場するのは信長の時代で、珍蛇酒(ちんたしゅ)(※4)というポートワインがポルトガルの宣教師から献上されたとの記録が残ってる
※4 2016年ワインエキスパートの1次試験に登場しています。
まーくん
なんで珍蛇なんですか?
ワインヌ先生
ティンタってスペイン語で赤っていう意味で、ポルトガル語の場合、赤を意味する言葉はティント。これがなまって「ちんた」になった言われてるな
まーくん
へ~
エジプト
ワインヌ先生
エジプトでは紀元前1500年くらいの壁画に、圧搾、搾汁している様子の壁画が残ってる
まーくん
え、そんな前から!?
ワインヌ先生
ギリシャだと紀元前2000年の頃、圧搾してる壁画が残ってるし、ジョージアだとそれよりもっとずっと前からワイン造りしてるという歴史があるぞ
まーくん
ワインの歴史、超長いな……
ワインヌ先生
この頃のエジプトのワインは、陶器でつくられたアンフォラという容器にブドウ果汁を入れて発酵させ、辛口にしたワインに蜂蜜や香辛料で味付けしていたそうな
まーくん
美味しそうですね
ワインヌ先生
そんでアンフォラには、醸造園やブドウの品種が刻印されていたことがわかってる。ワインの味わいとして、「新鮮」「甘い」「極上品」の表示もあったんだと!
まーくん
ええっ、すごい丁寧!
ワインヌ先生
とは言え、神への供物としての役割が大きく、一般市民がありつけたのは祭りのときとかで、あとは医術でも広く使われてたと
まーくん
百薬の長!
ギリシャ
ワインヌ先生
お次はギリシャ。
なんと、紀元前2800年頃のブドウ圧搾機が発見されてて、紀元前2000年から1700年くらいには、足踏式ブドウ破砕機などを含む醸造所の基礎ができていた
まーくん
ワイン、5000年の歴史……
ワインヌ先生
紀元前800年代末に活躍した詩人・ホメロスの『オデュッセイア』(※5)には多数ワインが登場していて、「きらめくワイン」「赤い」「甘い」「強い」などの言葉でワインが表現がされてるな
※5 長編叙事詩。英雄・オデュッセウスの冒険と恋の物語。
まーくん
既に文学に登場してただなんて……!
ワインヌ先生
そして、ギリシャではワインを水で割るという文化があった
まーくん
え、スプリッツァー(※6)みたいな?
※6 白ワインに炭酸水を入れたカクテル。
ワインヌ先生
いや、そんな洒落たもんじゃなく、医学的に濃いワインは多く飲むと頭痛の原因となるから水で薄めて飲んだほうが良いとされてたんだと
まーくん
へ~
ワインヌ先生
紀元前460年頃に活躍したヒポクラテスは「ワイン治療法」なるものを提唱していて、赤や白、新古の違いでワインが体にどういう作用をもたらすのかを書いてる。解熱剤、利尿剤、消毒剤、疲労回復に良いともしていて、これは医学が発達して根拠も突き止められる現代においても言われてることと近いな
まーくん
すごい……!
ワインヌ先生
ギリシャの賢人たちが「飲み過ぎはダメ」とか「二日酔いにはキャベツの汁」とか「未成年は飲んじゃダメ」とか、口々にワインと健康について言及している点(※7)もおもしろい
※7 アルケストラス「飲むなら、食事しつつ飲め」、アリストテレス「二日酔いにはキャベツの汁が効く」、エウプロス「飲み過ぎるとダメ」、プラトン「未成年は飲酒、ダメ」、ソクラテス「適量を少しずつ飲むなら快い歓喜の世界が待ってる」
まーくん
みんな、健康的にワインで酔っ払いたかったんですね
ワインヌ先生
だな~頭の中は今も昔も変わってないな。
というわけで、長くなったので次回に続く!
ワインの歴史 (「食」の図書館)
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