1000年前のワインは、現在流通しているワインと同じ味だったのか──そんな話題がネットを駆け巡りました。というわけで、弁護士でワイン研究家である山本博先生の著書『ワインの歴史』を参考に中世ワインの味を読み解いてみよう、第2弾いってみましょう!
【更新情報】
2018年1月24日公開。
2019年5月14日更新。
ワインヌ先生
前回、1000年前のワインは現在流通してるワインとは違うぜって話をして、紀元前のギリシャまでの歴史をまとめてみたが、どうだった?

まーくん
昔のワインは今とは違い、泥酔するための酒で、それゆえに学者たちが口をすっぱくして「健康に飲め!」って言葉を残してて笑いましたw
ワインヌ先生
だな~享楽として飲む場合と、一方で医療で薬として扱われていたっていうのもおもしろかった。
というわけで、今回はまず旧約聖書に登場したワインはどんなふうだったかというところから読んでいこうぜ!
まーくん
聖書ですか、なるほど

旧約聖書でワインでワインはネガティブな存在

ワインヌ先生
旧約聖書ではもちろんワインが登場して「新しい」「泡立つ」「水に割る」「甘い」「酸い」「赤い」などの表現がされている
まーくん
結構観察されてますね。
1種類のワインしかないと、何となく思ってました
ワインヌ先生
オレも。

で、ブドウ畑を奪い合って殺し合ったり、復讐の際にワインを飲んで酔っぱらい殺人を遂行するとか、非常にネガティブな場面で登場することが多い

まーくん
ギリシャとかエジプトとは違いますね
ワインヌ先生
おそらく、ワインは夢に描いたような豊かさの象徴だったため、酒に淫する者も多く出てきたから教訓としてそう記述したんじゃないか、とされてる
まーくん
その点は、やり方は違えどギリシャの学者が注意を促したっていう点に似てますね
ワインヌ先生
どこの国でも飲みすぎてハメ外すヤツが結構いたってことだな
まーくん
ですねえ
ワインヌ先生
ちなみに、この時代のワインには「正しい」「きちんとした」を意味する“コシャー”という名で呼ばれていたものがあって、かなり厳密にラビ(※)の定めを経てつくられていたっぽいぞ
※ ラビ:宗教的指導者のこと。
まーくん
現在も流通してます?
ワインヌ先生
本著にはあるけどネットにはなかったので、現地では売ってるのかも。でも、味が当時のものを再現してるかは不明だと

 

紀元前ローマのワイン

ワインヌ先生
お次は紀元前のローマ

まず、初期ローマは超アンチワイン。
堕落の誘いとしてて、妻がもし飲んだら殺してもOKっていう法律があった

まーくん
こわっ……
ワインヌ先生
でもこれは西暦186年に法律で廃止。記録でも紀元前194年までしか残ってない
まーくん
まあ、普通に考えてどうかしてますよね

ブドウに対する農薬も登場

ワインヌ先生
西暦79年にヴェスヴィオ山の大噴火によって消えた大都市・ポンペイ(※)も、実は超ワイン都市で、紀元600年頃のアンフォラが見つかってる
※ポンペイ:カンパーニャ州ナポリ県にある。西南部。
まーくん
へ~!
ワインヌ先生
そして、紀元前160年、政治家のマルクス・ポルキウスカトーの『農事論』で、ブドウが色づくヴェレゾンの時期に良質な実に仕上げるための農薬を使ったという記述がある(※)

 

※ 蛇の抜け殻、スペルト小麦、タチジャコウ草、塩をまぶしてワインに混ぜたものだそうです。
まーくん
そんな前に!
ワインヌ先生
貴族どころか、ブドウ園で働く奴隷にも与えられていたワインの年間量の記述も残ってる。ワインは王侯貴族だけが楽しむものから、量産品が増えてきたことで一般市民にも手が出せられるものになってきたことがわかる
まーくん
今の日本より消費されてるんじゃ……

文学の中のワイン

ワインヌ先生
そしてこの時代、おもしろいのが文学の中のワインだな。
ローマの上流階級の華やかな生活を描いたピカレスクロマン(※)『サテュリコン』の「トリマルキオの饗宴」では巨大ガラスに入れられた「ファレルヌム美酒 オピミウム銘柄 百歳」というワインが登場する
※ ピカレスクロマン:悪者を主人公とした社会への批判や風刺を描くことが多い。
まーくん
え、100歳!
ワインヌ先生
物語の中だから実在したかはさておき、ありえないことでもない。
現代だったら100歳のボルドーが飲めたりするしな
まーくん
おおお……
ワインヌ先生
そして、ローマを彩ると言えばクレオパトラ

彼女が飲んでいたとされるワインもファレルヌムとされ、これは2~3年熟成のものだったそうな

まーくん
するする飲んでそうですもんね
ワインヌ先生
ただ、赤ワインのイメージが強いが、この頃の高級ワインは白の甘口で、甘みが足りないと蜂蜜を入れたりしてたようだな
まーくん
貴腐ワインみたいな味でしょうかね

 

酸っぱいワイン

ワインヌ先生
ローマ史では、ネットの1000年ワイン論争でたびたび言われていた酸っぱいワインも登場するぜ
まーくん
おお!!
ワインヌ先生
前述してるとおり、時代の流れとして高級ワインは甘口だったんだが、363年ギボンによって書かれた『ローマ帝国衰亡史』では、従軍中は贅沢なワインを禁止し、酸っぱい下級ワインを水にかわる飲料とすることが書かれている
まーくん
水が高級品だったんですね
ワインヌ先生
そういうことだな。ただし将校には上等ワインが用意されてた、と。

ちょっと遡るが、紀元前58年から51年のガリア戦争では、ローマ軍のガイウス・カエサルがガリアの要所に駐屯所をつくり、兵士たちがワインを飲むのを現地のガリア人に見せつけたらしいぞ

まーくん
楽しそうだな~
ワインヌ先生
そして、現地人がその様子を見て、一念発起し寒いところでも生き延びる品種を見つけブドウの栽培を広めていったんだと
まーくん
酒欲から広がる歴史……
ワインヌ先生
で、この頃のワインはくどくてねっとり、樹脂入りで奇妙な味との記述が残ってるから、ワインというよりは薬っぽいな
まーくん
まだ発展途上だったんでしょうか?
ワインヌ先生
ん~しかし、この後に樽で熟成したら美味しいということを発見し、アカシアやポプラ、栗などで試して結局オークにたどり着いたことがわかってる
まーくん
え、そんな昔にオークっていう結論が出てたんですね!
ワインヌ先生
そうだな。

ということで、この次は中世に飛ぶけど、①のほうで書いた通りなので、いずれ気が向いたら③やるよ! ということで

まーくん
適当だな……
まーくん
でも、ワインの歴史がざっくりとわかっておもしろかったです
ワインヌ先生
自分たちが思ってよりも、ずっと昔からワインの技術は確立されていた。
ただ、それがどんどん磨かれ、今の素晴らしい味のワインが近世あたりでようやく登場した。

先人たちが努力したその原動力は、美味しい酒を飲みたいという欲だったってことが残ってる文学や書籍からありありとわかるほど、表現豊かに書かれてる。
美味しいものを味わいたいという人間の根源的な欲はいつの時代も変わらないなと

まーくん
ですね、ワイン飲みたくなっちゃいました!

参考文献:『ワインの歴史』山本博 河出書房