遠い昔、ワインのコルクは呼吸しており、中のワインの熟成に影響を与えるとされていました。近年になってコルクには空気の分子を通すほどの隙間はないとされ、長年まことしやかに語られてきた「コルクが呼吸する」という言説への意義が多く発言されるようになりました。しかし、さらにその説に対しても現場に立つ生産者側からの異論が飛び出しているようです。

【更新情報】
2018年2月5日公開。
2019年4月28日更新。

コルクは呼吸してない派

ワインヌ先生
コルクってさ、ずっと呼吸してるかと思ってたんだ
まーくん
え、しているのでは!?
ワインヌ先生
だと思うよな。

でも、ワイン研究家の掘賢一氏の著書『ワインの自由』では、ルイ・パスツールが唱えたコルク呼吸説をきっぱり「幻想です」とつづってる

まーくん
まじですか!
ワインヌ先生
理由はコルクの隙間に水分が入ることで膨張し、空気を通す隙間など絶対につくらないから、だそうだ
まーくん
なるほど
ワインヌ先生
出荷されたワインはヘッドスペース(※)にある空気のみで熟成していき、空気がなくなった後は還元状態となり、嫌気的な状況下で熟成が進んでいく。外から空気が入ることはありえない、ということらしい
※ ワインのボトル内にあるネック部分の空間。
まーくん
だから還元臭のあるワインができるんですね

コルクが呼吸してる派

ワインヌ先生
しかし、この説について現場から否定する声が出た
まーくん
なんと!
ワインヌ先生
フランスの名門アルマン・ルソーで働いた経験があり、現在はカリフォルニアでワイン造りを行っているマボロシヴィンヤードのオーナー・私市友宏さんが2008年にブログで「それほど難しく考えることはない」とし、自身の経験からコルクは空気(酸素)を通すという事実について断言できると語ってる

<参考:幻ワイン醸造日記

まーくん
現場からの声、有力ですね
ワインヌ先生
さらに、スペインのコルク研究所にコルクの参加透過率の測定を依頼したそうな
まーくん
熱意がすごいな
ワインヌ先生
するとだ、最高級のナチュラルコルクで1日に0.002ccの酸素を通すことがわかった。
ちなみにコルクには質の違いがあって、低品質のものは目が粗いのでより多く空気を通してしまうから長期保管に向かないんだと

<参考:コルク栓は呼吸しているのか?│JMM配信エッセイ ワインは語りかける

 

まーくん
は~なるほど

コルクがワインと反応して熟成香を生み出してる説

ワインヌ先生
そもそも、コルクが呼吸してる説はスクリューキャップのワインの普及によって再浮上した。
コルク栓のワインとスクリューキャップのワイン、まったく中身が同じでも味が違う、となった
まーくん
マリアージュ ~神の雫最終章~』(※)でもありましたね!
※ 6巻48話「前代未聞の“実験”ワイン」より。イタリア・トスカーナの幻の看板ワイン。サルケートのサルコ。
ワインヌ先生
あったな。ただ、あれはヘッドスペースの広さの違いでスクリューキャップのほうが熟成が進んでいたという結果だった
まーくん
でしたでした
ワインヌ先生
そういう場合ももちろんあるし、イタリアの大学はボトル熟成中にワインと反応して揮発性物質を出し、ワインに熟成香を与えるという論文をアメリカのワイン学会で発表してる
まーくん
つまり、コルクとワインが反応してブーケが生まれてると!
ワインヌ先生
そういうことだな。

これはめちゃめちゃおもしろい説。だって、ずっとコルクはワインに影響与えないって言われてきてたし

まーくん
ワクワク
ワインヌ先生
先に出た掘氏もこの考えに賛成してるところを見ると、やっぱコルクは呼吸してなくて、スクリューのものと違うなら、その理由は透過された空気の影響ではなく、コルクとワインが接触したことで発生した揮発性物質の他ならないという意見なんだろう

<参考:ワインの熟成とコルクについてのさらなる話│カリフォルニアワインのお勝手口

DIAMコルクの【酸素透過率】

ワインヌ先生
そんで、近年登場したTCAを取り除いたDIAMコルク(※)について、「酸素透過率が天然コルクの1/400」だとされている

<参考:NZワインをもっと知ろう。│NewZealand wines.co.nz

※ フランスのコルクと樽メーカーであるエネオ社が関わって造られたコルク。ブショネの可能性だけでなく臭気分子も除去。天然コルクを細かく破砕し洗浄した後に合成している。
まーくん
あれ、つまり天然コルクが酸素透過するって話が前提なんですかね?
ワインヌ先生
そうっぽいな。

色々調べたり知人ソムリエの話を聞いたりしたけど、今のとこやっぱり半々の意見
ただ、オレ自身は、コルクは樹木だしいくらぎゅっと収縮しても酸素くらい通す隙間はあるんじゃないかな~と思ってる

まーくん
ふむふむ
ワインヌ先生
今後、いろんな研究者がおもしろい研究結果を出してくれることを楽しみにしてるぜ
まーくん
ですね!
【追記】ここ数年で出版されたワイン関連本の多くには、「コルクは呼吸している」とあります(参考:『誰も知らなかったワインの瓶熟-その真実-』井手甫 コスミック出版)。

 

2014年ヴィンテージからDIAMコルクを使用。